奥野信太郎編集 中国文学名作全集1 1967年に盛光社からの出版である。
奥野氏は慶応時代の草森さんの恩師。彼が一目置いていたまだ20代の草森さんにこの訳をまかせたのだろう。ただ全文ルビの付いた中学生くらいにむけて書かれたものらしい。司馬遷の130巻に及ぶ「史記」の「列伝」と「本紀」のなかから17の話を選んでいる。挿絵は草森さんの友人の井上洋介氏。
この本は任梟盧にはいまのところ見つかってなくて、弟の草森英二さんが所蔵していたもので、友人のT氏に譲ったものだ。それを冒険子が借り受けて読んでみた次第。
もう50年以上も前のものなので、誤植も多少あるのだが、おもしろく読めた。
通読して思うのは、中国という広大な国をまとめていくには極めて残酷な、いわば恐怖政治を行うしかなかったのかという歴史認識であり、それはまた現代にも残っているような気もすることである。冒険子は実はあまり歴史に興味がない。歴史とは勝者の都合が大きいはずだから。孔明のような名軍師や忠臣たちの固唾をのむような戦いぶりが、面白くないというのではない。それはそれで、楽しんでしまうのだが、ただ真の歴史とは、もっと違うところにあるのではないかと思っているからなのだ。
以下目次タイトルだけでも引用しておきたい。
帳良と不思議な老人
孫子と百八十人の女兵たち
かたわの孫臏(そんびん)
呉起ついに宰相となる
平原君と食客毛遂
馮驩(ふうかん)、孟嘗君を救う
刺客荊軻
藺相如(りんそうじょ)と和氏(かし)の玉
伍子胥(ごししょ)のかなしみ
若きしゅう長冒頓(ぼくとつ)
悲劇の将軍李広
帳湯の死
天下の名医扁鵲(へんじゃく)
秦の始皇帝
不老不死と漢の武帝
項羽の最後